ポートフォリオについて 日本在宅医学会と日本在宅医療学会は2019年5月に合併し日本在宅医療連合学会となりました

ポートフォリオについて

ポートフォリオ基盤型学習について

ポートフォリオ基盤型学習とは、学習者が在宅医療の断片的な経験を積み重ねていくという偶発的経験の蓄積に依拠するのではなく、学習者が自らの意思に基づいて、研修すべき内容の全体(在宅医に必要なスキルとマインドなど)をおさえ、「何のために何をやりとげたいか」「この研修で何を獲得したいのか」という自らの目標を定め、自らの意思で前向き(prospective)に学ぶことを援助する学習方法です。

つまり、研修期間の終了間際に振り返りながらエントリー項目をピックアップするという症例報告ではなく、研修の初めから、目標(アウトカム)を設定し、エントリーできる内容を探しながら研修を行うもので、研修者は「今のこの経験が、私が目標とする在宅医になるために必要なスキルのうちの、この領域・この部分を学んでいる」ということを常に意識して診療にあたることになります。

研修者はポートフォリオ領域として学会が定めた10領域・49項目の中から、自ら選択した必須項目を含む10領域15項目(実践者コースは10項目)のショーケース・ポートフォリオを最終的なプロダクトとして完成させます。

ポートフォリオについて

ポートフォリオは大きく「学習ポートフォリオ」と「評価ポートフォリオ」に分けられます。
学習ポートフォリオは日々の学習の記録で、患者の診療ログや日々の振り返り、指導医とのやりとりの記録、読んだ論文、患者さんからの手紙、多職種カンファレンスの記録などを蓄積するものです。専門医試験受験に至るまでの期間、このような学習の記録をポートフォリオのエントリー領域ごとに蓄積するようにしていきましょう。

専門医試験にあたって提出が求められているポートフォリオは、このような日々の学びの記録の学習ポートフォリオではなく、評価用のポートフォリオ(ショーケース・ポートフォリオ)です。これは一定の構造に基づいて作られており、研修者が専門医と呼ぶに足る高度な臨床実践を行っていることを評価者に伝えることが目的です。日々の学習を蓄積した学習ポートフォリオをもとに、自分自身の選んだbest workからなるショーケース・ポートフォリオを作成する必要があります。

ポートフォリオの作成方法

(1)ポートフォリオの領域

在宅医療連合学会では在宅医療専門医に求められる能力を大きく「領域」としてわけ、下位項目として「項目」を設定しています。ポートフォリオを作成する際には、学会が定めた10領域・49項目 の中から、必須項目(がん疼痛緩和と認知症)を含む10領域15項目(実践者コースは10項目)を選択します。
症例は在宅で関わった症例を対象とし、主に入院や外来で関わった症例は不可とします。

プログラムコース受験者:必須項目を含む10領域15項目を作成します。全ての領域について最低1項目が必要です。

実践者コース受験者:必須項目2項目と、「A分野」「B分野」それぞれから重複しない4領域を選択し、1領域につき1項目、8項目のポートフォリオを作成します。必須2項目+選択8項目でトータル10項目の作成が必要です。

(2)提出するポートフォリオの形式

①15項目(実践者コースは10項目)のポートフォリオの一覧を作成し、提出します。(所定の書式あり)

②各項目に関するポートフォリオを作成し、提出します。

  • 一項目につき、A3 1枚、横書きで作成してください。縦書きは不可とします。
  • 作成にあたっては、図表や写真などを組み込みやすいプレゼンテーションソフト(Power point、Keynote等)を使用してください。雛形があります ので、適宜利用をお勧めします。手書きのものは不可とします。

(3)ポートフォリオ作成のポイント

①研修者はそれぞれのエントリー領域において、自らの実践が在宅医療専門医にふさわしい高いレベルにあることを示す必要があります。従来の論文やケースレポートの形式ではないことに注意してください。必須形式として、[Cover Letter][事例][考察][Next Step][参考文献](詳細は以下で説明)を盛り込んでください。また、ポートフォリオ作成については指導医との対話が必要不可欠です。プログラム受験者は指導者とよく話し合いながらポートフォリオを作成し、[指導医の自筆のサイン]をポートフォリオに記載するようにしてください。(印鑑は不要)実践者コースでの受験者も他職種や同僚などとディスカッションを通して作成することでよりよいポートフォリオの作成につながります。実践者コースの受験者は指導者のサインは特に必要ありません。
この形式に則っていないポートフォリオが1つでもある場合は一次選考の段階で不合格となります。

[Cover Letter]

ポートフォリオの事例を選択した理由(なぜこの事例が当該エントリー領域において自分の能力を示す事例といえるのか)や検討課題を抽出するに至った過程、テーマに対する思いといった読者に対する導入部分です。

[事例]

事例の選択については、自分の能力を示すにふさわしい事例という観点から選択してください。成功事例を取り上げる方が能力は示しやすいですが、課題が多かったケースやうまくいかなかったケースを記載する場合には、問題となる状況をどのように分析して対処し、その実践をどう評価して次のステップにつなげていったかという成長のプロセスを記載しましょう。最終的に専門医にふさわしい実力があることを示すことができれば問題ありません。
受動的な経験事例(地域ケア会議やサービス担当者会議に出席・参加したのみなど)は不適切との評価を受けることがありますので、ご自身が十分に関わり、自身の実践を客観的に評価、振り返り、次に繋げることができた事例を選択してください。

記載にあたっては自分の思考経過を言語化し、ケアや診療において自らが工夫した経過・結果が分かるようにしましょう。その際に、自己流の実践ではなく、問題解決に役立つ分析方法や思考の枠組み(=フレームワーク)を適用しながら実践したことを記載します。事例の提示にあたって、年齢、性別は必ず記載してください。経験時期はX年9月といったように、症例を特定しにくいように記載してください。薬剤名は商品名®️または一般名、どちらでもかまいませんがどちらかに統一してください。

[考察]

事例や学習した事柄を振り返ってまとめます。その際に、独りよがりの考察ではなく、様々なフレームワークや論文を参考にしながら「提示した事例では何が起こっていたのか」「自分の実践をどのように評価するか」について考察した内容を記載してください。なお、フレームワークの妥当性を検証することはポートフォリオでは求められていません。

[Next Step]

今後どのように自分自身の実践をブラッシュアップしていくかについて、考察と必ず項目を分けて、新たな検討課題および学習目標を設定してください。

[参考文献]

活用したフレームワークや論文などを参考文献として記載します。
以下の表記方法(例)に従い、各引用箇所に番号を振り記載すること
<参考文献 表記方法(例)>

①厚生労働省発表:新型コロナウイルス感染症対策の基本方針.令和2年2月25日https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000599698.pdf

②CHEN, Nanshan, et al. Epidemiological and clinical characteristics of 99 cases of 2019 novel coronavirus pneumonia in Wuhan, China: a descriptive study. The lancet, 2020, 395.10223: 507-513.

③ 一般社団法人 日本環境感染学会:医療機関における新型コロナウイルス感染症への対応ガイド 2020,第 2 版.pp.1-12

②本ページ下より雛形がダウンロードできます
雛形はそのまま使用しても構いませんし、形式をきちんと満たしていれば、レイアウト、色彩の変更や写真の使用などは自由です。写真の使用やカラー印刷など、見る人にわかりやすい内容にすることを心掛け、ご自身のセンスで創意工夫してください。

なお、過度に大きい、あるいは小さいフォントサイズも好ましくありません。フォントサイズについても雛形ファイルを参考にしてください。事例の説明とは関係ない無意味な写真やイラストの貼り付けは評価が下がります。

また、他学会(プライマリケア連合学会、医学教育学会など)の資格認定試験用のポートフォリオの貼付はたとえ上記項目を満たしていたとしても一次試験で不合格とします。

③15項目(もしくは10項目)のポートフォリオの中で様々な形式のポートフォリオを作成することが望ましいと考えます。一症例を取り上げた検討だけでなく、同様な症例を複数集め検討するケースシリーズ、地域に介入した事例やアンケート調査など実践中に様々な取り組みを行った軌跡が伝わるポートフォリオを作成してください。すべてが一例報告のものは経験症例数が少ないとみなし、減点の対象となることがあります。

④ 在宅医療連合学会ではポートフォリオ作成支援としてポートフォリオ講習会を開催しています。講習会ではポートフォリオについての基本的知識を学んだり、実際の作りかけのポートフォリオを持参していただけば指導医の指導を受けたりすることができます。ポートフォリオの作成は当ホームページのガイドだけではなかなかイメージがつかみにくいところがあるため、受験にあたっては講習会に参加されることを強くお勧めします。

また、受験申請者を対象に「ポートフォリオ作成に関する基本レクチャー(WEB配信)」を予定しておりますので、申請者はポートフォリオ提出前に視聴することを強くお勧めします。

(4) ポートフォリオの具体例

① B2-④ 患者中心の医療・その他
「Bad news tellingを自分が主治医として行ったケースを抽出し、診療録からコミュニケーションの内容を分析した」

② A5-① 困難事例への対応
「チームで対応した困難ケースについてまとめた」
ケースをポートフォリオにまとめて提出する場合、類似のケースを複数経験した場合は、ケースシリーズとして検討してもよいですし、事例の中から最も自分がうまく関われたケース、課題が多かったケースなど一つにしぼっても構いません。

③ A4-① 急性期対応
「一年間に行った時間外対応のログ(一覧表)をもとに診療所全体の急性期対応を分析し、考察を加えた」(ログをそのまま貼付したのみのものはポートフォリオとしては認めません。)

④ B5-②在宅医療の質改善プロジェクト
「在宅医療の質を改善するためにシステム改善を提案して、とりくんだ経過やその成果を報告する」

  • これらのほか、本ページ下に保存されている優秀ポートフォリオも例として参考にしてください

ポートフォリオ基盤型学習における指導医の役割

研修期間の初期段階で面接を行い、研修期間中に「何のために、何をやりとげたいのか」を話し合い、明確にします。具体的に目標とする領域・項目のうち、研修期間中に自分がどのようなことがらを達成したいのかを確認し合います。

在宅研修機関が想定している研修のプログラムで、目標を達成するための経験・学習の場が設定されているか(プログラムの決定・修正)を確認し合います。(急性期対応を経験するために待機、当直などの時間が確保されているかなど)

指導医は定期的なフィードバック(週1回あるいは隔週等)、レジデントデイ(月1回、2月に1回等)などの機会をもうけ、研修者学びの振り返り、ポートフォリオ作成を援助します。特に、振り返りの中から、テーマとなりそうな事例やことがら(ネタ)を一緒に確認し指導します。

指導医は研修者が直面している課題に対して解決そのものを提示するより、問題解決に役立つ分析ツールや思考の枠組み(=フレームワーク)の提供といった方略を示すことが求められます。これにより研修者の問題解決型学習が促され、対話の過程すべてが質の高いポートフォリオの作成につながります。

研修期間の後半は、さまざまな領域、項目にまたがる学習ポートフォリオ(荒削りのもの)から、凝集した評価ポートフォリオ(ショーケース・ポートフォリオ)に完成することを意識しつつ指導します。

できれば、プログラムの3分の2を終えた時点で、それまで完成したポートフォリオの報告会などを開催し、集中的に振り返りを行う場を設け、研修状況を確認するとともに、最終的なポートフォリオ作成にむけての軌道修正を行います。

在宅医療連合学会が開催するポートフォリオ講習会や指導医大会などに参加し、他の研修者や指導医から評価やフィードバックを受けることでポートフォリオをブラッシュアップすることも有効です。多くの研修者のポートフォリオにコメントしたり、他の指導医のフィードバックに触れることは指導能力の向上やご自身の学習にもなりますので研修者に出席を勧めるだけでなく、指導医の皆様もご参加ください。

研修の最後では、完成したポートフォリオを確認しながら、研修総括を行い、今後の課題などについて確認します。試験にむけて提出するポートフォリオは、エントリー領域に対して適切な事例選定がなされているか、論旨が通っているか、研修者の能力が十分に示されているか、文献やフレームワークをきちんと使っているか、などを一緒にチェックし、本人氏名の横に指導医がサインをするようにしてください。

在宅専門医取得にあたって

出願にあたってはポートフォリオのほかに複数書類が必要となり、事前の準備が必要なものも含まれます。出願に必要な書類を早期に確認し、早めから準備をしておきましょう。

データダウンロード

研修プログラム ポートフォリオテーマ

研修プログラム ポートフォリオテーマ

ポートフォリオの作成方法(PDF)

ポートフォリオの作成方法(PDF)

ポートフォリオ雛形

ポートフォリオ雛形

優秀ポートフォリオ

2024年

A1-必須 認知症「在宅における認知症への寄り添い方~薬物・非薬物療法のまとめ~」

A2-必須 疼痛の評価シートを活用し包括的な疼痛管理を行った3症例

B5-① 地域づくり「在宅医療における災害対応について~地域での活動・被災地での活動経験を経て~」

2023年

A2-① 他の症状管理「がん終末期に対するステロイド」

2022年

A1-必須 認知症「認知症終末期で、1日の必要なカロリー摂取がとれなくなった症例への介入」

A1-⑥その他 「 高齢在宅患者に対する ポリファーマシー是正への取り組み」

B1-③ 支援費、難病制度 「未成年後見制度を利用することを選択した、胃がん終末期の母親の事例」

B5-④ 病診連携(在宅患者の食事支援)

2021年

A4-⑤ 臨死期の対応「在宅進行癌患者に対する酸素投与と生存期間の検討」

A4-⑥ 在宅医療におけるがん終末期患者の生命予後について

A5-② その他(BPSモデル) 常用量薬物依存への取り組み-BPSアプローチを交えて-

B1-② 介護保険制度 医学教育の場で在宅医療の制度を伝える取り組み

B2-⑤ 患者中心の医療と家族ケア「悪性リンパ腫で在宅療養を選択した自閉スペクトラム症患者と家族のケア」

2020年

A1-必須 認知症「認知症初期集中支援の取り組み」

A2-⑤「看取り後の在宅ケアについての感想」

A4-② 在宅医療の諸相:2019年、当院訪問診療での熱中症の状況

A4-⑥訪問診療にて医療介入を行った18トリソミー 7例の検討 ~在宅でできることはなにか~

B2-④ 肺がん末期患者の治療時の娘3人に対する家族志向のケア

B5-② 在宅医療の質改善プロジェクト「特定単一有料老人ホームにおけるポリファーマシーの検討」

B5-② 質改善プロジェクト︓介護施設に対する摂⾷嚥下の情報共有に関する意識調査と栄養情報提供書の作成

B5-⑥ 当院における女性医師の活用に向けた取り組みと女性医師活用から波及した医師の働き方改革の提案

2019年

A1-④ 排泄(生活をふまえた便秘・排便へのアプローチ)

A1-④ 排泄(排尿・排便) 恥骨上聴性打診による膀胱容量の推測

A1-⑥ リハビリテーションによりもたらされた神経難病患者の精神的な苦痛緩和

A2-③ 非癌患者の緩和医療筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者に対するオピオイドの使用

A4-⑥ 在宅療養中止事例と看取り事例の比較(神経難病事例において)

2018年

A1-① 認知症(認知症の初期から終末期 在宅看取りまでの様々なフェーズへの関わりとアルツハイマー型認知)

A1-⑥ リハビリテーション(神経難病患者に対するICFを用いたリハビリテーション介入)

A1-⑦ その他(往診患者(高齢者)に生じた急な状態変化の原因をまとめ対応についての課題を検討した)

A4-② 急性期の在宅での治療(在宅小児患者の電話対応155件の検討)

A5-① 複雑な事例(高齢認知症夫婦と発達障害の長男への対応に苦慮した一例)

B4-① 延命治療の選択(ALS患者における延命治療の選択)

B5-①(患者多就職に対しての講演報告および考察)

2017年

A1-②栄養障害:簡易栄養状態評価表 Mini Nutritional Assessment(MNA)を用いた

A4-⑤看取りのエンゼルケアについて訪問看護師と一緒に考えた

B3-④多職種の理解 薬局実習から薬剤師の仕事の理解を深めた

B4-②終末期の意思決定の支援

2016年

A1-②栄養障害

B1-②介護保険制度

B1-④その他「 成年後見制度トラブルの経験から学んだ、意思決定支援」

B2-④ 遺族の満足度調査

B3-①形骸的で時間のかかる担当者会議を脱却し、活発に意見の出る会議へ!

B5-②緩和ケアパスで医療の質改善!現状を把握するためのQuality Indicatorの利用

2015年

A1-④高齢者(夜間)頻尿に対してアプローチ

A1-⑥在宅ポジショニングの実践

A1-⑥転倒骨折症例ログと転倒スコアを用いたリスク評価の有用性について

B2-④介護困難のある老夫婦世帯で在宅死を迎えられた事例を家族ケアの視点で考察する

B5-④地域連携・病診連携へのアプローチ