代表理事挨拶 日本在宅医学会と日本在宅医療学会は2019年5月に合併し日本在宅医療連合学会となりました

代表理事挨拶

代表理事挨拶

石垣泰則

代表理事挨拶

2020年初頭から、新型コロナウィルス感染症のまん延により、世界中が大きな影響を受けました。日本在宅医療連合学会は合併新体制が立ち上がって間もなくの時期であり、理事会では会議や事業の進め方、そして学会のあり方などを議論しました。そのような状況を経て、学会活動を継続し、わが国において最も早くWEBを通じた学術大会を実行することができました。2020年3月には新型コロナウィルス感染症対策のワーキングを立ち上げ、当学会ならではの在宅医療や介護現場における「新型コロナウィルス感染症に関する指針・提言」を発出しました。また、委員会活動もWEBを活用することで、活発に実施されました。厳しい社会状況下におきましても在宅医療を推進するための活動を続けることができましたのも、大会や企画に参加してくださった会員の皆様並び役割を担ってくださった役員の皆様のお陰に他なりません。心より感謝申し上げます。

新型コロナウィルス感染症はわが国の医療体制に激震を走らせましたが、日本在宅医療連合学会は第1波の時点から在宅医療が感染対策に介入する必要性を主張して参りました。単に在宅医が感染現場に出向くだけでなく、地域包括ケアシステムの強化や病院医療と在宅医療との協力体制構築や多職種が協力して対処することの重要性について訴えて参りました。2025年を目の前にして、社会保障の先行きが困難であることも明確になっております。この局面を打開するためには、多様化する医療介護ニーズに適切に応えることができるよう地域包括ケアシステムを全国に展開し、入院・外来・在宅医療がシームレスに提供される医療体制を作ることが求められます。

今後、課題克服のために行うべきことは、在宅医療の標準化を図り、良質な在宅医療を提供し、医療における国民の意識改革と技術革新を進め、国が総力を挙げて地域共生社会の実現を目指すことであります。

在宅医療で提供される医療は治し支える医療であると言われています。治す医療のゴールは疾患の治癒であり生命の延伸と明快ですが、支える医療のゴールは当事者の意思に沿った医療であり、この場合の医療の質は多様である。医療の質を議論する場合、在宅医療を提供する組織や人員等の構造に関する事項、在宅医療の診断や治療技術、医療安全や継続性等のプロセスに関する事項、治療を受ける患者や介護者のQOLを含むアウトカム(Patient Reported Outcome: PRO)などの結果に関する事項など多元的に解析する必要です。在宅医療の質評価は患者視点に立脚したエビデンスに基づいて行われることが重要です。日本在宅医療連合学会は多職種により組織された学術団体として、これらの課題解決のための命題に立ち向かう必要があると考えます。

近年、在宅医療の多様性が顕著になってきています。歴史的には、寝たきり老人を対象に制定された訪問診療は、障害児者や医療的ケア児にその年齢層は広がりました。対象となる疾患背景も、年齢や生活習慣と関連して発症するがんや心臓病、脳卒中等をはじめとして、難病、遺伝性あるいは先天性疾患、精神疾患、骨折など整形疾患等と多岐にわたっています。

また、疾患横断的医療分野が介入することによる有効性も認識されており、特に緩和ケアや老年医学、リハビリテーション医学等の領域が挙げられ、救急医療や災害医療の分野との連携も進めていく必要があると考えます。更に、これまで主に病院で行われてきた新規治療を、在宅療養下で提供する時代が到来すると予想します。多様化する医療に対応する、在宅医療技術といったサイエンスと倫理的配慮やコミュニケーションといったアートを両立させるための理念の確立と教育の充実が求められます。

コンピテンシーとは社会から与えられた役割で、優れた成果を発揮する行動特性と定義されます。日本在宅医療連合学会は在宅専門医の使命を「重い障害を持つ人や暮らしにくさを持つ人、医療にアクセスできない人、命の問題に直面する人たちに、家や地域において優先的に関わることである」と定めました。これらの命題解決に資する在宅専門医の6つの中心的資質・能力(コア・コンピテンシー)は、①プロフェッショナリズム、②継続的支援、③包括的支援、④家族の支援と療養環境の調整、⑤地域に根差した活動、⑥在宅医療の質向上への貢献、としました。今後は、在宅医療に関わる専門職のコア・コンピテンシーやかかりつけ医のコア・コンピテンシーについても議論して、策定していく必要があります。

ユニバーサルヘルスカバレッジ(Universal Health Coverage:UHC)は、2012 年に国連総会で議決された理念で、「誰もが、どこでも(アクセスが公平であること)、お金に困ることなく(支払い可能であること)、必要な質の高いプライマリ・ヘルスケア(質の高い医療サービス)を受けられる状態」を示す。今後、様々な厳しい状況が想定されるわが国の医療介護環境であるが、UHCの理念を持ち続けるよう、医療介護分野以外の産業分野や行政機関も含め、産官学一体となって叡智を発揮することが重要であります。例えば、労働力の不足を補うためのロボットテクノロジーや実臨床の場面におけるICTを用いた遠隔医療などを、在宅医療の場面でいかに活用すべきか考える時代が迫っています。

今後、日本在宅医療連合学会には多くの分野から、様々な事柄を期待されることは間違いありません。会員の皆様と一緒に考え、議論し、社会に貢献できる学術団体として発展することに力を注いで参ります。ご支援よろしくお願い申し上げます。

令和3年7月